民法第892条 ― 推定相続人の廃除
第892条にはこう書かれています。
遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待や重大な侮辱をした場合、または他に著しい非行があった場合、被相続人は家庭裁判所に対して、その推定相続人を廃除してほしいと請求できる。
条文の意味をかみ砕くと
「推定相続人」というのは、現時点ではまだ相続は始まっていないけれど、いざ被相続人が亡くなったときには相続人になるはずの人を指します。子どもや配偶者などが典型的です。
この条文は、その推定相続人が被相続人にひどい仕打ちをした場合に適用されます。例えば、虐待をしたり、人格を踏みにじるような侮辱を加えたり、その他にも社会的に見て重大な非行をした場合などです。
そういう事情があるとき、被相続人は「この人には財産を相続させたくない」と考えるのが自然です。しかし相続権は法律で強く守られているので、単に遺言で「相続させない」と書くだけでは足りません。そこで家庭裁判所に申し立てをして、「廃除」という手続きを取る必要があります。
廃除が認められるとどうなるか
廃除が認められると、その推定相続人は相続権を失い、遺留分(最低限の取り分)すら主張できなくなります。
つまり、法律上も「相続人ではない」扱いになるのです。
この規定の背景
相続は本来、家族のつながりを前提にしています。けれども、中には被相続人に対して著しく不誠実な態度をとる家族もいます。そうした人にまで「権利だから」と相続を認めてしまうのは不公平です。
第892条は、被相続人の人格や尊厳を守るための特別な規定といえます。
まとめに代えて
この条文は、相続の世界の「最終手段」のようなものです。家族関係の断絶を意味する重い手続きですが、それでも被相続人の意思を尊重し、正当な理由があるときには相続権を取り消すことができる仕組みが用意されている、ということですね。