2025.9.6 相続
自筆証書遺言の解説
民法第968条 ― 自筆証書遺言の方式
- 基本ルール(第1項)
自筆証書によって遺言を作る場合、遺言者本人が次の点を必ず守らなければなりません。
- 遺言の全文を自筆で書く
- 日付を自筆で書く
- 氏名を自筆で書く
- 押印する
これらが欠けていると遺言は無効になります。たとえば日付が「○月吉日」など特定できない形だと無効になる点も実務でよく問題になります。
- 財産目録を添付する場合(第2項)
2019年の民法改正で導入されたルールです。
遺言に財産の一覧(不動産や預金の目録など)を添付する場合、その部分は自筆でなくても構いません。パソコンで作成したり、通帳のコピーや不動産登記事項証明書を添付することも可能です。
ただし、その目録の各ページには遺言者本人の署名と押印が必要です。これにより偽造や改ざんを防ぎます。
- 遺言の変更(第3項)
自筆証書遺言に訂正や加除をするときには、次の要件を満たさなければ効力がありません。
- 変更箇所を指示する
- 変更した旨を付記する
- その部分に署名する
- 変更箇所に押印する
つまり、単に二重線を引いただけでは無効で、形式に従った訂正をしなければなりません。
具体例で考える
- 正しい自筆証書遺言
「令和5年5月1日、東京都○○区在住の山田太郎は、全財産を長男一郎に相続させる。山田太郎(署名) 印」 - 無効になる例
- 日付が「令和5年5月吉日」と書かれている
- パソコンで全文を作成し、署名と押印だけした
- 訂正を二重線で消しただけで署名や押印をしていない
この条文の背景
自筆証書遺言は手軽に作れる一方で、偽造や争いのリスクも大きいです。そのため法律は厳格な方式を定め、真正性を確保しています。
一方で、財産目録を自筆に限らないという緩和も行われ、より実用的になりました。
ポイントのおさらい
- 遺言の本文は必ず本人が自筆し、日付・署名・押印が必要
- 財産目録は自筆でなくてもよいが、各ページに署名・押印が必須
- 訂正には厳格な方式があり、守らないと無効
この条文は「自筆証書遺言の有効性」をめぐる実務トラブルの中心であり、家庭裁判所でも争われることが多い部分です。最近では法務局での「自筆証書遺言の保管制度」もできており、より使いやすくなっています。